奥さんに、片想い



「二度寝して寝坊しないでくださいよ。俺、六時半には出ますから。夕方、遅くなるけど帰ってくるからメールしますね。今日も俺の部屋に千夏さんは帰ってくるの?」
「うん」

 彼が笑った。
「たまには千夏さんの部屋でも良いんだけど。いい匂いがするから」
「こっちがいい。コタローの匂いがするから」
「そっか」

 嬉しそうに笑ってくれるあの目も変わらない彼。

 あれから直ぐに結婚をする準備を始めた。
 婚約も済ませ、互いの両親にも挨拶を済ませ――。いまは式の準備中。
 せっかちな千夏らしく最短コースで計画。晩秋には式を挙げられることになった。

 もう彼女のその手際に、孝太郎もついていくのが精一杯といった感じ。でも――『らしいっすねえ』といつも笑ってくれる。

「今日は遅くなりそうだから、焼き肉でも食べに行きませんか」
「そうね、暑いしねー。焼き肉に冷たいビールいいわねー」
「じゃあ、決まり。俺も楽しみにして、県境まで頑張りまーす」

 ついに彼が鞄を手にして『行ってきます』と軽やかに出かけていってしまう。

 ああ、もうちょっと一緒にいて欲しかった。
 いつもの朝なら、夏の早い日の出と朝日に目が覚めたら、向こうから『千夏さん、千夏さん』て抱きついて戯れて。時には、燃え上がっちゃったりして……。

 一人になった彼のベッドに千夏は横になる。既に隣がスースーして心許なかった。

 

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