奥さんに、片想い



 あっという間に夕方になる。

 ……考えたくないけど、年相応なのかな。
 燃えるのはいいけど、あまり張り切ると夕方にはかなりだれてしまう。
 それともこれって既に結婚惚け? 婚前惚け? 

「あー。課長がこれ飲むの、わかるわー」

 コンビニで、栄養ドリンクを手に取る千夏。
 定時が過ぎ、孝太郎が帰ってくるまでの時間を残業をして待つことにする。
 その前にちょっと気分転換。外に出てコンビニエンスストアまで。

 そこで栄養ドリンクを手にする三十後半の女。
 甘い夜と朝を繰り返す夏の日。でも現実に戻った日常でやっていることは、まるで親父みたいだった。

 ざっくりと着たストライプのシャツも首元のボタンも外したまま。眼鏡もうっかり家用の安い黒縁眼鏡をかけてきてしまい、その上、二度寝をしたのでシャワーをざっと浴び、慌ててブローをしただけの髪で出勤してしまった。

 そんな最近の『ゆるい落合主任』になって、皆に心配されるかと思ったらそうでもなく……。

 『いいすねー、主任のそのラフな感じ』、
 『主任、なんだか色っぽくなりましたよね』。

 青年達からも、そして女性の後輩からもそう言われるようになったり? 

 しかも佐川課長に至っては『落合さんはちょっとルーズになった方が、魅力的だ』だなんて言ってくれたり。

 それでも仕事はきちんとやる。これだけは譲らなかった。
 孝太郎とも約束している。仕事はきちんとやろう――と。
 職場で出会ったので互いの責務を知り尽くしていることもあるが、特に彼は『落合主任の仕事姿から惚れたから、俺とつきあって変わったとか言われたくない』と強く願っているし、千夏自身も『佐川課長の補佐』としてのプライドは、落合千夏という個人として絶対に捨てたくなかった。

「でも。乱れているわー、これ」

 栄養ドリンク片手に会社前を歩きながら思った。
 ちょっと前まで、ボタンはきちんと締め、髪もきっちりまとめるか束ねていたのに。





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