奥さんに、片想い
その顔で彼が言った。
「スタミナつけなくちゃいけないのは、千夏さんの方だよ」
「どうして。私は沢山は食べられないわよ」
だが、次に孝太郎はちょっと周りを確かめてから、小声でなにかを言い出した。
「大きな声でいいたくないんだけど。あのさ、千夏さん、夜の体力なさすぎ」
ビールを飲んでいた千夏は『夜の体力』と言われ、噴き出しそうになった。
「し、失礼ね。私のこと、年上でもうへたれているって言いたいの!? だいたい、コタローは元気すぎるのよ。なんであんなに有り余っているのよっ」
まったくもってその通りで、孝太郎という男は身体も大きいそのイメージのまま、よく食べるし……。あっちの精力もとんでもなかった。まさに今が男盛りと言うほどの……。
また今まで通りの気強さで言い返したが、向こうもあのシビア顔で対抗してくる。
「だから。千夏さんにぜーんぶその身体で受け止めて欲しいから、体力つけて欲しいんですよ」
さらに肉を盛られて、千夏はますます対抗心を燃やした。
「ちょっと。いくら体力有り余っていても、限度ってもんがあるでしょ」
「限度? 俺、『恋人ができたら、その女性だけを思いっきり抱いてあげよう』と思って、この精力を温存してきたんだから。いまこそ千夏さんが受けてくれなくて、俺の精力どーすればいいんですか」
だから受け止めるためにスタミナつけろとなんだか向こうも負けん気ばっちりで向かってくるではないか。
しかもとどめ。
「それとも俺のこの精力、他で発散してもいいんすかね」
「だ、だめに決まっているじゃないっ」
この熊君がそんなことをするとは微塵も思っていないが、そんなことを言うだけでも絶対に絶対に許せなかったから、思わず叫んでしまう。