奥さんに、片想い



「今度、起きているときに同じ事してあげますから。だから頑張って起きていられるぐらいになってくださいね」

 と言って、またレバーを皿に入れられてしまった。

「ひどい、コタロー」

 それでも、孝太郎は余裕で笑っている。いつもこうして、おおらかに笑って全てを上手く流せる男。

「あはは。でも、いつもキリキリめいっぱい動き回っている落合主任が、もうくったり眠っちゃった顔なんか、俺、すっげー可愛いって思っているんだけど。ああ、みんなに教えてやりたい」

 また、でたー。何気なく『可愛い』とか平気でさらっと嫌みなく言ってくれて……。もう千夏の顔は熱くてしようがなかった。

「悔しい。コタローがびくともしないのが悔しいっ。今夜は絶対に寝ないから、私っ」

 そう言って、盛られた肉を一気に食べ尽くしてやった。
 それを彼はとっても楽しそうに見て、笑ってくれている。

 熊君は、いつもドンと大きく構えてくれている。もし千夏が機関銃のように怒りまくっても、きっと彼はシビアな顔でじっと仁王立ちでびくともせずに黙って受ける男。

 千夏の『最強に優しいドカベン』。勝てそうで勝てなくて、これがいつまで経っても続きそうだった。

「結婚て、終わらない延長戦なのかもね~」

 ふとつぶやくと、元球児の孝太郎もそっと笑う。

「俺、負けませんよ。なにせ落合主任の旦那になるんだから、負けてちゃ旦那失格でしょ」
「な、生意気っ」
「俺、落合主任の旦那だって認めてもらえる男になる」

 こんなこと堂々と吐いても嫌味がないのは、優しいドカベンだからなのだろうか。でも、千夏は既に沸騰状態で目眩がしていた。顔では困っても、内心とっても嬉しくて――。
 

 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―







 

< 143 / 147 >

この作品をシェア

pagetop