奥さんに、片想い
二人の結婚の報せは、本部でも『電撃婚』と騒がれた。
きっちり仕事の鬼で年上独身主任の千夏と、おおらかなシステム技術者体育会系年下男のカップルに、『何故何故、いつの間に』という質問を良くされる。
『なんで俺が落合主任みたいな美人を嫁さんに出来たんだって。もう何度も聞かれて流石に俺も疲れちゃった』――と、質問攻めに辟易していた孝太郎だが、最後には一人でニンマリとしているのを千夏は知っている。そしてそんな彼を知るとちょっと可愛く思ったり。
「そうだわ。コタロー、これ見て」
お弁当をかき込んでいる彼に、バッグから取り出した白い封筒を差し出す。
「それ。結婚式の招待状だね。誰かからの返信、また届いたの」
「そう。誰だと思う?」
孝太郎が白い封筒を手に取る。そしてゆっくり丁寧に招待状の返信はがきを封筒から出した。
「佐川課長宛の……だね」
だが孝太郎はその返信葉書の全貌を知ると、もう驚きの満面の笑みになりちょっと興奮気味に千夏を見ている。
「やった、やったじゃん! 千夏さん、佐川課長の奥さんも出席だって!!」
「そうなの! それに、見て見てここ!! メッセージがあるのっ」
「見た見た、これ!」
返信葉書を挟んで、肩を寄せ合い、いつの間にか頬も触れそうになって二人で顔を見合わせた。
「熱いよ、コタロー」
「そうかな」
ここがお城ふもとの中心街でなければ。沢山の人が行き交う城山公園でなければ。きっと、夜のように……。
もう婚約して何度も抱き合って、夜も朝も真夏のような毎日を一緒に分け合っているのに。胸が苦しくなるほど見つめ合って戸惑っている。
でも千夏は、彼のつぶらな目から絶対に逸らさなかった。
負けたくないもの。一直線にまっすぐに、私のところに駆けてきてくれたこの人に。
これから負けないぐらいの剛速球で返したいから。
すると彼から恥ずかしそうにして、目線を逸らしてしまった。
『今日は、私の勝ち』。
千夏はそっとニンマリ。