奥さんに、片想い
「ね、奥さんのこの一言。ずしっとくるよ、俺」
照れた孝太郎が、太い指で華奢で綺麗な字を指した。
そこには、いつか会いたいと思って怖じ気づいたまま会えずじまいだった人の声があった。
――『男は生き様』。
同じ男で失敗し、最後は同じような男性にたどり着いた女同士だからこそ通じる、一言。
なんだか十何年も会っていないけれど、それが合い言葉のようで不思議な一言。
「佐川課長の奥さんらしいな~。あの男性を選んだ女性ってかんじだよ」
「そうね。生き様の男を選んだ奥様だもの」
そして千夏は、暑くて堪らない夏空を見上げる。
「私の憧れのご夫妻だからね」
隣で孝太郎も『俺も』と、一緒に微笑んでくれた。
「良かったな、千夏さん。一番、気にしていたもんな。美佳子さんが来てくれるかどうかって」
「うん、嬉しい!」
どんな顔で会えばいいか、どんな時に会えばいいか判らなかった。
いつか謝りたいと思っていた。
でも……きっと、もう『ごめんなさい』は無粋なのかもしれない。
『千夏さん、おめでとう。主人からいつも話に聞いていた河野君とご結婚されると知り、二人でとても喜んでいました。いつか会いたいと思っていた貴女との再会が、貴女が幸せになれる日で、その日へのご招待された日で、本当に本当に嬉しいです。貴女のドレス姿、楽しみにしていますね』。
きっとこれも毎日毎日を積んできた『奇跡』。
ああ、なにもかも。この澄み切った青の中に綺麗に飛んでいく!
◆ お局様に、片思い/完 ◆
★短い間でしたが、ここまでの連載のおつきいありがとうございました^^
茉莉恵