奥さんに、片想い
「いつも女の子達に優しい佐川君も、職場だけなんだね」
「優しくなんかないよ」
「わかっているんだから。女の子達を上手くなだめすかして円滑に業務を進める。課長がそれを期待して佐川君に女の子達を任せているって」
「ただ一緒に上手く行くようにと思って、普通にやっているだけだし」
「そういう言い方、喋り方。上手いよね」
ああもう。なんか絡んでくるなあと、僕は困り果てる。といっても、女の子達を相手にしていると意味もなく矛先にされていることは良くあることだった。
「なんで私を送っていく、なんて言ってくれたのよ。それならそれで、いつもの佐川君みたいに慰めてよーー」
彼女がまた涙をボロボロと流して『うわん』と泣き始めてしまい、僕も仰天。そして店の中を見渡してハラハラする。
「わ、わかった。なになに。どんな哀しいことがあったの」
いつもそうしているように、とにかく『彼女達の事情』を彼女達の口から聞くことから始めるんだ!
「みんなが、私を避けている!」
「仕方がないだろう。自分でも避けられている理由、自覚しているはずだよね」
「あれ、違うの。誤解されている。けど、いちいちこっちから釈明するのもおかしな話なんだもの」
「んん? 誤解? 釈明? それが出来ない?」
僕が知らない何かが目の前で繰り広げられる予感。でも彼女は自分から『聞いて欲しい』とばかりに振ってきたのに、やはり言い難いことなのか口ごもっている。
仕様がないなあ。じゃあ、ここはひとつ。僕自身は嫌なんだけれど、いつもやっているみたいに開く時は開くのに閉じたら頑固になっちゃう彼女達特有の口を開けてもらおうかと深呼吸。
「僕が知っているのは。安永さんが彼と別れたって話なんだけど。年下のね、一階にいる営業のね、入社三年目のヤツと」
「あんな奴とつきあっていたわけじゃないわよっ」
アイツサイテー! イーッと悔しそうに歯を噛みしめた顔。それを見て僕は「噂はガセだったのか」と違和感。
「あのさ、安永さんがそいつにスッゲー惚れているみたいな噂があったんだけど」
「なんなのよ、それ! でも否定しない。だって彼に誘われて何度かドライブに行ったのは確かなんだもの……」
「え、そうなのかよ」