奥さんに、片想い

「指導不足、管理不行き届きで営業部長も厳重注意されたらしいわよ」
「それ。本当?」
「元気ないでしょう。最近の部長」
 そしておばちゃんは言った。『次は異動させられるかもね』と――。
 『管理』、確かに営業部長の職務だ。でも釈然としない僕がいる。そしてやっぱり僕の腹立たしさは収まらない。若さでどこまで許してもらえると思っているんだ。まわりを傷つける若さなど『許される若さ』なんかじゃない。

 さらにそれから幾分か日が過ぎ、季節の変わり目へと差しかかかっていた頃だった。
 僕がいつも通りに暗くなる頃自宅に帰ると、美佳子が玄関でずっと待ちかまえていたように立っていた。
「徹平君、おかえり」
「うん。どうしたの。ずっとここにいたみたいに」
 もう美佳子の溢れんばかりの笑み。僕が『どうしたの』と聞いても、ずっと『うふふふふ』とこぼしてばかり。
「徹平君が車を停めて、ここに帰ってくるまでずっと窓から見ていたの」
「僕の車が帰ってくるまで窓で見張っていたってことかよ。なんで」
 目の前に、見たことがない白色のスティックが差し出された。それを触ろうとすると美佳子が『触っちゃダメ!』と遠ざけてしまう。
「徹平君、これ何か知らないの!?」
「なに。それ」
 みるとスティックの真ん中に丸い窓がふたつ。赤いラインが窓の中に。
「これ尿で調べるんだけど、ここに赤い線が出るとね。お腹に赤ちゃんがいるってことなの」
「え!!」

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