奥さんに、片想い
びっくりして、僕は玄関で突っ立ったままになる。でも美佳子はそんな僕を見て嬉しそうだった。
「まだちゃんと産婦人科で検査しないと、ちゃんと赤ちゃんが正常にいるかどうかわからないんだけどね」
「え、えーえーえー?」
「そうなんですよ、パパ」
「えー。そうなんだ!」
やっと僕も認識。それはそれは勿論、嬉しかった。好きだった女性と結婚、そして彼女が妊娠。二人の間に子供が。その子が僕と美佳子を確かに繋げてくれる。
これで僕もやっと、美佳子に選ばれた男であってもいいんだと思える。
――なら、いいのだけれど。
嬉しさが落ち着いた後、僕は思い出す。
子供がいつ出来たか。男して振り返る。その時僕の心が少しだけ曇る。思いついた夜が『私は疫病神なのよ!』と妻が叫んだ日の夜だったからだ。
あの夜。寄り添って眠っていた美佳子はやっぱり僕の背中にしがみついてひとしきり泣いた。もうごめんねとも僕に言えず。僕を怒らせまいと――。
そんな彼女と、なにかを振り払うように、確かめ合うように、貪るように抱き合ったのを思い出したのだ。
あの時の子?
僕たちは、あの男があって結婚し、あの男に関わって子供を授かったというのだろうか。
もし疫病神がいるならば。その男だ。
僕の幸せの少し前に現れて、あいつはいつまでも僕たち夫妻のまわりをウロウロしている。
その度に妻が取り乱す。もう、そんなの御免だ。
しかし。次の異動シーズン。営業の彼は異動となり、他の支局へと出て行った。
彼は僕の目の前から消えたのだ。
僕と美佳子のところに来た子供は、女の子。
家族三人、つつがない日々を過ごしいつのまにか数年が経っていた。