奥さんに、片想い
午後の中休み前。美佳子の後輩だった高原愛ちゃんをそっと休憩室へと呼び出す。夫妻揃ってのお祝いを渡すと彼女もとても喜んでくれた。
「係長には大変お世話になりました。いつも丁寧に親身に助けてくださって。ほんと、どんなにお客様に怒鳴られても心強かったです」
「高原さんも頑張っていたよ。黙々と業務を進めてくれて、接客応対も丁寧だったし。五年間、しっかり地道にやってきて最近は一人で何でも手配できるまでになって僕の手伝いもほとんどなかったでしょう。これから東京でも、きっとなんでもやりこなせるよ」
僕の言葉に、彼女もホッとした笑みを見せてくれる。
「ありがとうございます。佐川係長がそう言ってくれるなら、きっとその通りになれそうだと本気で思えるんですよね。今までもずっとそうでしたから」
僕と彼女は穏やかに微笑みあう。そんな上司と部下の間に、わざわざ休憩室までやってきて割って入る女性が現れる。
「いた、係長っ。探したんですよ。ちょっと来てくださいよ。私の前に応対した人のデーターがむちゃくちゃなんですけど、見てください!」
「う、うん。分かった、今行く」
彼女の登場で、愛ちゃんの顔色が変わってしまう。そんな彼女に気遣うように、愛ちゃんは箱を見えないよう抱きかかえ去っていってしまった。
「お邪魔でしたか?」
「別に」
「係長はえこひいきしないと思っていたけど。違ったみたい」
愛ちゃんが少し大きな包みを持っていたことを目ざとく見つけていたようだった。
この彼女は、来た時からやりにくい女の子だった。それも当然か……。この彼女は二年前にこのコンサル室に配属、事務室から異動してきたあの『沖田の彼女』だった女性。つまり『美佳子さんが私の彼氏を寝取った』と言いふらした張本人。
沖田が他の支局へと異動して、あっという間に二人は別れたらしい。それからも彼女の立場はあまり良い物ではなかった。それでも平気な顔をして淡々と業務をこなしているうちに、彼女もついにコンサルへと異動してきた。
そんな彼女はある意味嫌われ者だった。彼女も分かっているのか、言葉もキツイしツンと取り澄まして素直じゃない。だから僕は内心、彼女が確信犯的に割って入ってきたのだと予感しながらそっと溜め息。コンサル室に戻り彼女のデスクに座って、その『むちゃくちゃなデーター』とやらを眺めた。
「どれかな」
僕が見る限り、どこも滅茶苦茶ではなさそうだが?