奥さんに、片想い
僕も驚いた。素直で清純そうな彼女がそんなこと出来るはずないと。
「だから係長の奥さんと高原さんは気が合うんでしょうね。男受けする女だから、悪気ないふりをして平気で男を盗って、『わたしのせいじゃない。男が選んでくれたんだ』て顔を当たり前のようにしているの」
美佳子のことが取り出され、敏感になっていた僕はつい硬直してしまった。だが次から次へと憚る話題を落合さんがぶちまける。愛ちゃんだけじゃない、僕も言い返せないほどの放心状態に追い込まれる。
「そんな女に係長はすごく甘い。だから高原さんのことも甘く流して許して、まるで私が悪者みたいに。そんな美佳子さんと高原さんが係長には可愛い女に見えるんですよね。だから気をよくして……」
追撃止まらぬ彼女がついに。僕が一番聞きたくないことを言い放つ――。
「だから係長は美佳子さんがどんなえげつない女か知らずに騙されて結婚しちゃったのよ!」
僕がいちばん気にしていることを。
あの時、なにもかも追いつめられていた美佳子だったからこそ。
僕を逃げ道として選んだんだという……。
目の前が、僕の目が、コンサル室の何もかも。ありとあらゆる色合いがぶっ飛んで真っ白になる。
「係長と美佳子さんが結婚してから、私は毎日散々。美佳子さんは沖田に誘われたけどほどほどのおつきあいで留めて、最後には真面目で堅実な佐川さんを賢く選んだみたいに見てもらえて。沖田と美佳子さんは『寝ていない』と言い張っていたけど、そんなの当人同士しかわからないじゃない。私の勘は『沖田は美佳子さんを欲しがっていた。だから寝た』だったの! その真実を訴えたかったはずの私の方があれからずっと悪者よ!」
「もうやめて!」
真っ白になったはずだが。愛ちゃんがヘッドホンをデスクにバンっと叩き付けた音で、僕の意識はハッとコンサル室に戻った。
「謝って!!」
いつもにこにこ可愛らしいだけだった愛ちゃんがもの凄い怒った顔で落合さんに向かっていた。
「私のことはどう言ってもいいけど。係長のことは関係ないじゃない!」
「関係なくないわよ! 係長夫妻から可愛がられて、お祝いをもらっていたくせに! だから最後に気が緩んで迷惑かけても知らん顔。それで辞めていくっていい迷惑よ!」