奥さんに、片想い
 

 ―◆・◆・◆・◆・◆―

 二十分ほどインバウンドコールを受け付け、僕も愛ちゃんも落ち着いたので交代する。
「高原さん、僕は大丈夫だから。でも有り難うね」
「いえ、余計なこと。辞める前に騒いでしまって申し訳ありませんでした」
「気にしないで。それより、残り少し。しっかりやって」
 解りました――と、彼女がやっと笑顔になって受け付け業務に戻っていった。
 さて。気を取り直して。田窪さんが代わりに宥めてくれている落合さんをなんとかしなくては。
 彼女との因縁は忘れ、僕は『係長』に戻ろうと必死になる。
 女の子達が休憩室に使っているミーティング室へと向かった。
 そこの窓際で、まだぐずぐすしている落合さんと彼女の濡れた顔を拭いている田窪さんが向かい合っていた。
「田窪さん、有り難うございました」
 僕の姿を知った落合さんが、ゆっくりと立ち上がった。
「係長、申し訳ありませんでした」
 深々と頭を下げた落合さん。そしていつまでも頭を上げない。いつになく殊勝な様子の彼女だが、今日の彼女は心から詫びてくれているように見えた。
「佐川君。彼女にも言い分があってね」
 田窪さんの助け船。僕もそっと頷く。
「分かっています。だからもういいよ。落合さん」
「私から佐川君に話しておくから。落合さん、もう戻りなさい」
 僕でなく田窪さんが、落合さんの背中を押しコンサル室へと返した。
「まだ佐川君とは面と向かって話すほど、素直にはなれないみたいだから、私から伝えてくれるならいいっていろいろ話してくれたよ」
「そうでしたか」
 僕は落合さんが座っていた椅子に腰をかけ、田窪さんと向かい合った。
「彼女も悪いけどね。でも私は同じ女として、落合さんの気持ち、分からないんでもないんだよね」
「好きな男が少しでも他の女に余所見をしていたら、疑ってかかるってことですか」
 田窪さんはとても驚いた顔で僕を見た。そして……なんだかとても困った顔で溜め息。
「だよね。男も同じかもね。てっちゃんも、本当のところ落合さんの気持ちが誰よりも分かっているかもしれないね」
 僕は黙った。その通りだったから。

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