奥さんに、片想い
「でもそんな主婦にとって良い条件の仕事なら、募集をかけたらたくさん来るでしょう。オペレーターの求職はよく見かけるようになったけど、受付サービス業だけにシフトが不規則で合わなかったり、少人数で締め切られたり、年齢で振り落とされたり。経験者の私でも何度も落とされているのに」
こんないい話が転がり込んできただけに、美佳子は訝しそうに眉をひそめた。そして僕はその問いに苦笑いをこぼす。
「それが。このコール受付業務の開設準備で、オペレーター研修を始めて2ヶ月ほどになるんだけど、ロジスティックシステムを含んだパソコン操作をしながらの電話応対がなかなか身に付かなくて、研修時点で辞めるパートさんが絶えないんだってさ」
「え、そうなのっ」
「うん。中年女性は覚えきれずに辞めて、若い子は面倒くさがって辞めての繰り返しで、募集人数を達しても研修クリアができないんだってさ」
「ああ、それで。辞めた経験者をあたっているわけ」
「そういうこと。どうする? その代わりこのコルセン業務は夜間受付も計画されていて、週に一度だけ二十時まで受け付けのローテンションになってしまうみたいなんだ。そこは僕がなんとか早く帰って梨佳のめんどうみるから」
そうすれば、たとえ妻がパートでも共働きが出来るだろうと思って、僕も腹をくくった。
そこまでの夫の提案に、妻の返事も決まっていた。
「ありがとう、徹平君。うん、やるだけやってみる」
僕たちは微笑みあう。翌日、夫の僕から課長に返事をし、妻が元職場での復帰を果たすことになった。
―◆・◆・◆・◆・◆―
美佳子のコールセンターは、本部なので街中にある。近くの電鉄を使っての通勤。
初日。緊張している美佳子を僕は駅まで車で送ってあげた。
「大丈夫だよ。同じ会社の仕事に戻るだけなんだから」
「うん。そうだね」
「嫌だったら昼で帰ってきなよ。僕は迎えに行けないから、一人で帰ってこられるよな?」
ちょっとひねくれた僕の激励に、美佳子がぷっと膨れ面に。
「そんな研修辞めが続出する中声をかけてもらったのに。第一日で辞めるだなんて夫に恥をかかせるようなことしません。以上に、経験者のプライドが許せないわよ」
その意気その意気と僕も茶化して、彼女を見送った。
そして僕の車は市街郊外にある支局へ。もう二十年にもなってしまいそうな異動せぬ職場へと向かう。