奥さんに、片想い
あの天敵ともいえた落合さんが、何故、今となっては僕のことをよく見ている女性と言えるのか。――やはり彼女も変わったからだった。
魔女のようになり爆発してから今日まで五年間。彼女は無口な女性になってしまっていた。でも誰よりも真剣に仕事に取り組むようになっていた。元々要領も良く度胸もあるので雑念なくクリアに集中できるようになった彼女の能力は見る見る間にアップしていった。しかも反省を踏まえてか、それが真っ当だと心に決めたのか、係長である僕のことを田窪さんのようにサポートしてくれるようになった。それもさりげなく、会話も少なく、押しつけがましくなく。礼を求めるわけでもなく。そのうちに彼女もコンサル室のお局様となったが、コンサル一のキャリアレディになり、若い子達から畏怖されるようになっていた。そう、いつの間にか僕の片腕に匹敵していた。
ある時。既に数名いる主任職に新たに一名選出して増員することになり、課長から『徹平は誰がいいか』と聞かれた時、僕は迷わず『落合さん』と答えていた。だが、その時は落選。過去の汚点がこんな時に響く結果に。行いとはそんな時に自分の足を引っ張る。彼女から痛手を被った僕自身からの推薦でも、だった。だがその後『私を推薦してくれたと課長から聞きました。有り難うございました』と涙ぐむ彼女から礼をもらった。『それで許して頂けたと思っても良いでしょうか』と聞かれたので『とっくに許しているから推薦したんだけど』とも答えると、彼女はまた涙をいっぱい目に溜めて、今度は逃走するように走り去ってしまったのだ。僕は唖然としたが、翌日からも彼女は無口で平坦なバリキャリ姉さんに戻っていて、さりげなく僕をサポートしてくれていた。
そんな片腕とも言える彼女には隠せそうになく、
「うん。ちょっと疲れている」
僕は溜め息をつきながら小さく笑った。
急に気の毒そうに僕を見た彼女が、周りを気にして耳元に囁く。
「沖田のことではありませんか」
僕はドキリとし、あからさまに驚いた顔を彼女に向けてしまった。
「やっぱりね」
今日、残業をする時に話をする時間を取って欲しいと彼女からの申し出。僕は思わず頷き約束をしてしまった。