奥さんに、片想い
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空が暗くなり、女の子達が全て帰ってから落合さんと喫煙室で向かい合った。
クールな女に成長した彼女は、前置きもなく僕に言った。
「今だから言わせて頂きますが。私が貧乏くじを引いたように、係長の奥様も沖田に関わっていた以上やはり『貧乏くじ』を握らされていたということです。美佳子さんも私同様『男を見る目がなかった』と思うんですよ」
それだけで、彼女がなにもかも知っていることを僕は悟った。
「なんで、知っているの」
「本部に同期生が何人かいるんです。女性も男性も」
「あ、そういえばそうだったね」
「奥様が辞められたと知った時から、もしやと思ってそれとなく探ってみたんです。でも、係長に話せばきっと気に病むと思って……」
五年経って変わった彼女は、今やこんな気遣いも上等だった。田窪さんのように、僕の様子を見て『事実』を告げるタイミングを見計らう優しさを持って。
「有り難う」
「いえ。私も沖田のことになると黙っていられなくて」
「貧乏くじかあ。なるほどねえ」
美佳子が疫病神なのではなく、貧乏くじを引いてしまっただけ。そう思えば、僕以上に美佳子も気が楽になるだろうか?
「そっか。貧乏くじを持っているから、仕方がなかったのか」
「そうですね。貧乏くじのマイナス効果は少なくとも一度は受けないと、良い方向には進めないようです」
『はあ』と疲れた溜め息をつく落合さん。彼女自身がそうだったから。沖田と関わってすさんだ心を綺麗に浄化するまでに自分自身で酷く追い込んだ。そこを抜けて今の彼女がいる。それは美佳子も同様、再就職でその呪いを受けたことになるのだろうか。
「係長。今度、本部コンサル室の課長候補になっているというのは本当なのですか」
まだ誰もこの支局では知るはずもないことを知っていて僕は驚く。