奥さんに、片想い
「すみません、課長。冷たい麦茶を切らしていました」
「はあ? 一時間後はもうお客様がいらっしゃるだろ」
チェック不足で申し訳ありません――と、コンサル修行中の青年が僕に頭を下げる。
「いいよ。僕がそこのコンビニで買ってくる」
え、課長が! と、アウトコールで各企業に連絡をしていたメンバーがヘッドホンをしたまま課長席へと一斉に視線を集めてきた。
「課長、そんな。私達が行きますよ」
「そうですよ。僕のミスだから僕が行きます!」
「いいから。コールに戻って。コールに集中して。その代わり、僕が買い物に行っている間のクレーム処理はなんとかやってくれよ」
唖然としている彼等の返答も聞かず、僕は緩めていたネクタイを締め直しコンサル室を飛び出した。
外は蝉の声、真っ青な空が眩しい。冷房が効いた本部の一室を出ると途端に汗が噴き出す灼熱の国道沿い。僕はコンビニへと目指す。
「課長」
呼ばれ振り返ると、落合さんが僕を追いかけてきていた。
「やはり私が行きます。課長がコンサル室を空けてはいけませんから」
「いいよ。僕が外に出たかったんだ」
『まあ、サボりですか。佐川課長らしくない』と、落合さんが意外な顔。
「実は、睡眠時間が減っているから眠いんだ。僕も歳だからさあ」
「そうでしたか。明け方は子守りパパですものね。そういうことなら」
「麦茶を買うついでに、冷たい栄養ドリンクでも飲んで目を覚ましてくるよ」
もうすぐそこに見えているコンビニエンスストアを僕は指さして笑う。落合さんもそっと微笑んでくれた。
「では、私戻ります」
「十五分で戻るから。その間よろしく、主任」
「なにかあったら携帯に連絡しますから、慌てずに気分転換してきてください」
彼女が手を振って本部ビルに戻っていく――。