奥さんに、片想い



 すると彼等がにっこり顔を見合わせる。

「買ってありますよ」

 え、若い彼等にしてはすっごい気が利くじゃないと千夏は驚いた。

「佐川課長が同じ事を言ったから」
「ああ、そういうことね。なるほど」

 流石、佐川課長。なんて良く気の付く人。
 あの人は『この仕事は僕の仕事』と決めたらとことんやり尽くす人だった。
 それでここまでやってきた男性。育ててもらった部下として感無量、感動の瞬間。

 冷蔵庫を開けると、ちゃんと大きなペットボトルがある。

「こうしてくれると、私もガミガミ言う鬼ババにならなくて済むのにねえ。ほんと、課長のおかげでまたうるさいお局様にならなくて済んだわ」

 なんていつもの『鬼ババ局様』の異名を自分から口にしてみた。
 すると若い彼等がまた顔を見合わせて、ちょっとおかしそうだった。

「なによ、なに」
「冷蔵庫の奥、見てください」

 なになに?

「いいから見てくださいよ」

 彼等に言われて冷蔵庫の奥を覗くと、そこには千夏がよく食べているものが……。

「ティラミス!」
「俺達のお土産です」
「主任がよく食べているから買っていこうって、なったんですよ」

 なに。今日はスイーツデー?? 
 しかも若い男の子達からわんさかと貢がれて?


 でもそれだけで、彼等が楽しそうに笑っている。
 何故そんなに笑うのか眉をひそめる千夏だが。


「落合さんは、鬼ババなんかじゃないですよ」
「そうですよ。甘いものを見てそんな優しい顔もするじゃないですか」
「な、なによ。なんのつもりなのよっ。胡麻をすっても、鬼ババのままですからね」

 素直にならないお局姉様をみて、彼等がまだ楽しそうに笑う。

「佐川課長が言っていましたよ」
「な、なんて?」

 千夏の胸がドキッとする。





< 79 / 147 >

この作品をシェア

pagetop