奥さんに、片想い
すると彼等がにっこり顔を見合わせる。
「買ってありますよ」
え、若い彼等にしてはすっごい気が利くじゃないと千夏は驚いた。
「佐川課長が同じ事を言ったから」
「ああ、そういうことね。なるほど」
流石、佐川課長。なんて良く気の付く人。
あの人は『この仕事は僕の仕事』と決めたらとことんやり尽くす人だった。
それでここまでやってきた男性。育ててもらった部下として感無量、感動の瞬間。
冷蔵庫を開けると、ちゃんと大きなペットボトルがある。
「こうしてくれると、私もガミガミ言う鬼ババにならなくて済むのにねえ。ほんと、課長のおかげでまたうるさいお局様にならなくて済んだわ」
なんていつもの『鬼ババ局様』の異名を自分から口にしてみた。
すると若い彼等がまた顔を見合わせて、ちょっとおかしそうだった。
「なによ、なに」
「冷蔵庫の奥、見てください」
なになに?
「いいから見てくださいよ」
彼等に言われて冷蔵庫の奥を覗くと、そこには千夏がよく食べているものが……。
「ティラミス!」
「俺達のお土産です」
「主任がよく食べているから買っていこうって、なったんですよ」
なに。今日はスイーツデー??
しかも若い男の子達からわんさかと貢がれて?
でもそれだけで、彼等が楽しそうに笑っている。
何故そんなに笑うのか眉をひそめる千夏だが。
「落合さんは、鬼ババなんかじゃないですよ」
「そうですよ。甘いものを見てそんな優しい顔もするじゃないですか」
「な、なによ。なんのつもりなのよっ。胡麻をすっても、鬼ババのままですからね」
素直にならないお局姉様をみて、彼等がまだ楽しそうに笑う。
「佐川課長が言っていましたよ」
「な、なんて?」
千夏の胸がドキッとする。