奥さんに、片想い
「自分に厳しいから他人にも厳しくなるだけで、とっても良く気が付くところは、女性らしくなくちゃできないて」
「仕事は男顔負けの姉御でも、たまには男の僕たちが女性らしいところもフォローしてあげないとって言われたんですよ」
突然、千夏の胸がずきゅんと縮まり、血液が熱く顔や耳に集まってくる感触。
でもでも、若い彼等に絶対に悟られまいと必死に平静を装う。
「ありがとう。これ、今日の中休みに頂くわね」
にっこり微笑みを返し、なんとか余裕のお局姉様でいられた。
彼等もほっとした顔。
「主任、ちょっと背負い込みだって。みんなで言っているんですよ」
「前年度のロスを背負って法人コンサル室にきたから、仕方がないですけど。少し息抜きしたほうがいいですよ」
キリキリしている鬼ババをにっこりさせる余裕を持たせる。
その為の『スイーツ』かと、一気に良い気分が霧散する。
「なに言っているの! そのロスを早く解消しなくちゃ貴方達も仕事がしづらいでしょ。貴方達の失態でもないのに顧客に怒られてばっかりで!」
自分でも思うが、こういう性格で、つい厳しく変貌してしまう。
やっかいな性格、嫌になる。それでも……。
「佐川課長がどんなに……」
何故、こんなに必死になってしまうのか。
そう思うと、いつもいつも、千夏の中で熱いものが込み上げる。
その思いがついに溢れ出てしまう。
「佐川課長が転属してきてすぐ、どれだけ頭を下げまくって、けなされまくって、会社の失態をフォローしていると思っているの? 足蹴にされているところ、貴方達見たことがないでしょ」
『す、すみません』。
気遣ってくれた彼等が揃って頭を下げてきたのを見て、千夏もハッと我に返った。
「ご、ごめんなさい。カッとなっちゃって。う、うん。来たばかりの私に……有り難う。これ大好きだから」
「いえ……。俺達も、去年から厳しい状況下の中、主任が来てから何度も庇ってもらって。それだけでたいぶ気が楽になったもんだから」
「ちょっとでも、その、気分転換になればと思って」
「ごめん、本当にごめんなさいね。やっぱり私もてんぱっているわ。ほんとこれ食べてゆったりさせてもらうね」
やっと彼等も嬉しそうな顔になってくれる。
河野君からもらったチョコレートを冷蔵庫にしまい、千夏は給湯室を後にする。