奥さんに、片想い
「そうしたら、やっぱりすごいんだよ。僕なんかちょっとの球でびびってしまうのに。河野君は速度がマックスになってもガンガンかっ飛ばすんだ。あの身体でバットを大きく振ったら、それはもう豪快。僕自身がヒットしなくても、彼がバッティングしているのを見ているだけでスカッとする。本当に『カキーン』て空高く飛んでいくんだ。周りの客も連打する河野君に魅入っていたよ」
『男が惚れてしまう男』らしい。
男同士だから通じる『格好良さ』に課長は感動しているようだった。
で、そんな話に興奮していた佐川課長がそこで急に千夏を見下ろし言った。
「今度、落合さんも一緒に行こうよ」
もうちょっとでこの男性の柔らかさに騙されるところだった……。
「興味ありません」
キッパリ言い返すと、佐川課長も苦笑い。
「変わらないね、そういうところ。ま、その気になったらいつでも僕に言ってよ。明後日も河野君とバッティングセンターに行く約束しているから」
あからさまな『仲介』。
でもそんなこと課長も自覚しているし千夏にもばれていると分かって余裕の顔。
「午後、一件、訪問に行くけど。今日は若いの連れて行くから、落合さんは野中君と一緒にコンサル室たのむよ」
野中君というのは、元々いたコンサル員で沖田が出て行った後係長に昇格したばかりの男性。千夏と同世代。でも既婚者。課長が留守の時は彼とコンサル室を守っている。
「いいんですか。野中さんと一緒でなくても。私一人でも留守番できますよ」
「営業本部長も一緒だから大丈夫。でも若い彼等にも厳しいところを見せておかないとな。社会勉強」
先程、『知らないでしょ!』と彼等に叫んだばかり。
でも佐川課長も法人コンサル員としてそこを知るのも大事と気にしてそういう采配をとったのか。
まるで通じ合っているみたいで……。
そんなのダメと、首を振る。
絶対に誰にも言えない、知られてはいけない。悟られてもいけない。
まさか。いつの間にか佐川課長を好きになっていただなんて――。
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