奥さんに、片想い
「わかった。えっとー、哺乳瓶の消毒錠剤に、」
課長ほどの男性が、乳幼児用品をメモしてドラッグストアに買いに行く準備をする姿。
「おしりふき、な」
おしりふき!
千夏はついにおかしくなって笑い出しそうだったがなんとか堪え、肩だけ震わせた。
電話を切った課長には気づかれてしまう。
「笑っていただろっ」
「だって。本部コンサル室の課長が、奥さんに頼まれて仕事帰りに赤ちゃんの『おしりふき』を買いに行く姿なんて……!」
あの佐川課長がふてくされた顔で、でもメモを綺麗に折りたたんでシャツの胸ポケットにしまう。
「いいんだよ。僕はこれで」
「素敵ですよ。奥さんのお手伝いが出来る旦那さんって」
「ドラッグストアで買い物するだけだよ」
「それが出来ない男が結構いるんですって」
「かもな。若いと格好悪いと男は思うかもしれない。でも僕はもういいんだよ、ほんと、もう恥ずかしがる歳でもなし」
『そうかな』と千夏は思う。
それもあるかもしれないが、出来ない男は何歳になってもできないし――と。
そう思うと、羨ましいと心底思っている。
彼が奥さんも家庭も大事にしている姿。