奥さんに、片想い

イニング2(前半) 後攻◇お局主任はおひとり様




 彼はいわゆる『技術者』で、『システム管理部』に所属している。


 各部署のシステムメンテナンスにシステムチェック、トラブルが起きた時の対処、サーバーの管理などなど。
 毎日、どこかの支社支局へと飛び回っているので、本部の事務所にいることはほとんどない。

 千夏と佐川課長がいた支局時代でも、彼はそこの担当ではなかったので会うことはなかった。

 だが本部法人コンサル室のデーター管理、インアウトバンドなどのコール回線システム管理を担当しているチームの一人だったので、メンテナンスの日にコンサル室にやってきたのが彼との初顔合わせ。

 おそらく、佐川課長と彼が親しくなったのも、この時からなのだろう。千夏のことも。もしかするとこの時に……?


『俺、落合主任が格好つけずに本気でガミガミ叱りとばしている姿に惚れたんですけど』


 見られていたんだ。
 そう思うと頬が熱くなる。

 勿論、彼が言うとおり『格好つけている場合じゃない』と思ってなりふり構わずやる覚悟をしていたから見られていて当然のはずなのに。

 でも、そこが『惚れた』なんて。そんな男、いるの?


 昨夜は雨だった。それでも朝には薄黒い雲の切れ間から青空。
 いま千夏が立っているアスファルトには水溜まり。風でゆらゆら揺れる小さな波紋に青空が映っている。

 なんだかんだ悩んだ末、千夏は彼が指定した電鉄の駅に来てしまっていた。






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