奥さんに、片想い
やがて、一台のSUV車が駅前駐車場に停まった。
4WDの大きめの車の運転席から、河野君が現れる。
千夏が立っている姿を見て、彼が慌てて走ってくるのも、いつもと変わらなかった。
「す、す、すみません。俺から誘っておいて!」
もの凄く焦った顔。大きな身体でどっしり見える彼が、うっかりしたと動揺している姿はちょっとおかしかった。
「時間より少し早いし。遅刻でも何でもないじゃない」
「そーですけどっ。だって……まさか……」
誘ってくれた時はとても落ち着いた男の横顔を見せてくれていたのに。
まだ待ち合わせの時間でもないのに誘った女性より遅く来ただけで慌てているから、ついに千夏は微笑んでしまう。
「やっぱり『来ない』と思っていたんでしょ」
「……来ると信じていましたよ。一日中、待っている覚悟だってありましたよっ」
「あー。それでこの駅なんだ」
その駅は千夏が電鉄で来るには数駅で、しかも大きなスーパーと隣接していた。お腹が空いても買い物が出来るということ。
「いや、そういうわけじゃ……っ」
思わぬところを見抜かれて益々焦る河野君。でも彼の良いところは、
「いえ、その通りです。だって俺、腹を空かしては無理です」
千夏も同じことを彼に返したい。
彼の良いところは、格好つけないで正直なところだと思う。
だから信じられる――。彼に声をかけてもらうようになってからずっと感じていることだった。