奥さんに、片想い
「どうして」
「だから、昼休みに一人オフィスを飛び出して、堀端にいるんでしょう。午前中はエネルギーを思いっきり人に向けて、主任自身もギリギリの状態まで自分を追いつめてパワーを発揮。そりゃ、昼休みぐらい一人きりになってチャージでもしないとやっていけないでしょう」
だから、ここでもそっとしてくれているのか。
だが千夏は益々彼の気持ちを知って戸惑う。
なんだか表面だけじゃない『私』を彼は一生懸命見てくれている気がした瞬間。
「あのー。なにか話して良いなら、俺、いっぱい話したいんですけどー」
「そうなの?」
そんなにお喋りが得意そうには見えなかったから、黙っているのかと思っていたのに。
「話したいことってなに?」
「え、いいんですか? 俺、落合主任が静かにしている方が心地良いなら静かにしています。だって、すっごい優しい顔をしていたから」
でた。また……そんな人をびっくり嬉しくさせてしまう一言をなにげなく。しかも嫌味なく。
ほんと、困る。顔が熱くなる。心臓も大きく動くし。嘘っぽい男ならここで鼻で笑って済ませられるのに。この子の場合はそれが出来ない。
「堀端にいる時もそうなんですよね。ほっと一息ついて戦闘解除しているくつろいだ顔も、女性らしくって優しいんですよね。だから俺、ついついそんな主任に会いたくなって堀端に行ってしまうんです。えっと、邪魔だってわかっているんですけど、すみません」
本当に、なんなのこの人は……。なに。なんでこんなに女として嬉しくなってしまうことばかり平気で言ってくれるのかしら。
それとも私ってここで既に騙されているわけ?
こんな純朴そうなスポーツ青年の顔をして、実は今までもすっごい沢山の女の子をこうして喜ばせて手玉に取ってきたとか?
私、もしかしてすっごい見当違い起こしていない?
男を見る目ナシと自覚している千夏だから、余計に冷静になって振り返ってみた。