奥さんに、片想い
「あの、なんで俺をそんなに見てるんですか。いきなり怖い顔……なんか嫌なこと言いましたか、俺」
眉をひそめながら彼を見ているうちに、本当に眉間に皺が寄ってしまいかなり怪しい顔で彼を見ていたようだ。
それだけ千夏には不思議生物に出会った気分。
「ええっと。俺に何か言いたそうですけど」
「未確認生物――UMAユーマって知っている?」
「あの、知っていますけど。なんの話をしようとしているんですか? まさか大橋を渡り継いでヒバゴンが見たいとか言わないですよね」
困惑しているけど、真顔の彼。
ついに千夏は笑い出してしまった。
さらに困惑している河野君。
絶対に、遊び慣れている男なんかじゃない。一瞬でもそんな男と疑った自分のこともおかしくて仕様がない。
「あはは。なんだかわからないけど。主任が思いっきり笑うところ初めて見た」
「あはは。まさかヒバゴンが出てくるとは思わなかった!」
もう、いい。今日は彼と一緒にいて楽しければいい。
そう思えたのだが。いやいや、と千夏は元に戻ろうとする。
当初の目的だった『本当の自分』を知らせることだけは忘れてはいけないと、和らぎかけた心にもう一度念を押した。
―◆・◆・◆・◆・◆―
海岸沿いにある和食レストランに到着。市内でも有名な企業が展開しているレストランの支店。海の側ということで、海鮮を売りにしている店だった。
店内は寿司店のようなカウンター席と、オーシャンビューの小上がりの座敷席がある。勿論、彼は海が見渡せる座敷席を選んでくれた。
早速、メニューを眺める。ちょうど、小腹も空いてきて千夏もすっかりその気で眺めてしまう。
「美味しそう。このレストランの横は良く通ることはあったんだけど、来たのは初めて」
「俺もですよ」
え、そうなの。だったらどうしてここを選んだのだろうと、千夏は首を傾げた。
「俺が知っている店だと、大食らいが行くような店ばっかりなんで。女性も喜んでもらえる繊細で大人が行くお店ってどこですかと。佐川課長に聞いてしまいました」
「え、ここは課長のオススメなの?」