名前の無い物語

一瞬
柚歌の言っている事を吉野は理解出来なかった


「柚歌…何言って…。」


これ以上進めば、柚歌の心は闇に堕ちる
所謂、デュアンテになってしまう



何故そんな事を知っているのか
吉野は分からなかった



「この先に空が…私が大好きだった、あの日々があるの。
もう一度私は、あの光の中に…。」


手を伸ばしても取り戻せなかった、あの輝いていた日々 
それが今、目の前にある


「目を醒ませ柚歌!こんなの闇が見せる幻覚だ!」


「それでも構わない!!私は、もう限界なの!」



柚歌の叫び声
吉野は一瞬言葉が詰まった


「もう嫌なの…。私のせいで空は居なくなった、なのに私は平然と過ごして…世界の未来を背負って…空の命を奪ったのに、世界を護れる筈なんて…。」


段々弱くなっていく柚歌の声



「辛いの!罪人のくせに、こんなの背負える資格なんてないのに…。」


柚歌の瞳から、涙が零れる


…これが、柚歌が抱えていた闇
この気持ちを、ずっと一人で抱えて
隠して


今まで…生きていたのか



「…今まで気付かなくてごめん、柚歌。」


こんな思いを抱えて
それでも、世界を救うために俺たちと旅をしてくれて


「でも…今の柚歌を空さんが望んでいると思うか?」







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