名前の無い物語
その少女の言葉に
その場の全員が吉野に視線を送った
「彩夏、誰だよ滝川って?」
コソリと、少年が少女ーー後藤彩夏に耳打ちする
「何言ってんの駿介。滝川吉野君…私達のクラスメートでしょ?」
彩夏の言葉に、長瀬駿介達も「あーそういえば。」と頭を掻いた
海と柚歌も、やっぱり吉野の知り合いかと納得した
只一人
吉野だけは…何も言わずに彼らを見据えていた
確かに
言われてみれば、後藤彩夏や長瀬駿介という名前に聞き覚えはある
だけど…それだけ
たった…それだけ
「久しぶりだね、滝川君。最近学校来ないから、心配してたんだよ?」
後藤彩夏がゆっくりと吉野に近づく
そんなの嘘だ
俺の存在なんて…
お前らの中には存在しない
「あ!」
「吉野!!」
海達の言葉を無視して
吉野は一気に走り出した