名前の無い物語
柚歌の言葉に
海は足を止めた
「いくらなんでも分からない事が多すぎる。家族もいない、クラスメートも先生も…昔の吉野の事を知らないなんて…。」
普通有り得ない
吉野は、どこか遠い所から来たって事?
たった…一人で?
まだ16歳なのに?
「…1つだけ分かったことは。」
海の声に、柚歌は顔を上げる
「アイツは、この街の人間じゃないかもしれないって事…だな。」
一瞬、柚歌は目を丸くした
が、すぐに悲しそうに頷いた
「吉野は、心が壊れて…この街に来た。」
「そこで大家さんに拾われて、今の学校に通っている…。それが一番シックリくるな。」
まだ決まった訳ではないのに
私の心は…どこか苦しい
「吉野を探そう、柚歌。」
海は柚歌の方に振り返った
「アイツを野放しにしとくのは…危険な気がする。」
ギュッと拳を握りしめて
柚歌は力強く頷いた