名前の無い物語
+『人』という字
ザァーー森が風に煽られる
木々に囲まれた墓地にある、1つのお墓
吉野はその前で立ち止まった
「…藤澤さん。」
お墓にお花を一輪置いて
吉野は手を合わせる
初めて藤澤さんに会った日は、あまり覚えていない
ただ雨が降っていて
傘もささずに倒れていた俺を…傘に入れてくれた人
俺に…暖かい手を差し伸べてくれた人
それから藤澤さんは、自分が経営しているアパートの一室を俺に与えてくれて
今の高校に行けるようにしてくれたのも藤澤さんだった
まるで、俺の親みたいで
俺の事を気にかけてくれる、最高の人だった
病気で、藤澤さんが死ぬまでは…
「藤澤さん…俺、どうしたらいいんですか?」