名前の無い物語
響き渡る歓声
グラウンドを包み込む大勢の拍手
それは…全て滝川吉野に向けられたものだった
「…今はそっとしといた方がいいな。」
「えぇ。」
ついさっきまでクラスメートと応援していた場所で
柚歌と海は彼らを見守っていた
「…変わったわね、吉野。」
柚歌の言葉に海は頷く
初めて吉野に会ったとき
何も映していない瞳が…どこか怖かった
意思も、感情も
彼は何も持っていないみたいで
だけど…
「アイツ…良い顔するじゃねぇか。」
柚歌と海の目の前
大勢のクラスメートに囲まれながら
その中心で、楽しそうに笑う滝川吉野の姿があった