名前の無い物語
「海っ!」ダン、と背中に感じる激痛と共に
柚歌の悲鳴に似た叫びが海の耳に入った
壁にぶつかり、動きがない海を確認すると
少年の視線は吉野と彼を支えている柚歌に向けられる
「っ…!」咄嗟に感じる殺気に
柚歌は一瞬身震いした
「…ソイツ、渡してもらおうか。」
少年から放たれた冷たい声に
柚歌は冷や汗を流しながら首を横に振る
「…渡さない。君たちなんかに、吉野は絶対に渡さない!」
直感で分かる
この人達はきっと吉野の知り合いだ
だけど…彼等に吉野を渡してはいけない
渡せばきっと…吉野は殺されるーーー
少年は舌打ちを吐いて
黒い剣を柚歌に向ける
すぐに、吉野の剣と同じものだと柚歌は気付いた
「っ、それは…ーーー!」