名前の無い物語
「何で葵まで…。」
医療班班長として、柚璃がここにいるのは分かる
けど、葵は何故ここに?
海の言葉に答えたのは柚璃だった
「今回、みんなを読んだのは医療班ではないわ。…葵よ。」
「え?」海は目を丸くした
隣にいる華は心配そうに海を見つめる
「…華、悪いけど…席を外して欲しい。」
申し訳なさそうに告げる葵
そんな葵の様子を見て、華はニコリと笑った
「…分かった。先に教室に帰ってるね。
」
「ごめんね、華。」
謝る葵に、華はもう一度明るい笑顔を浮かべた
「吉野君、早く目が醒めたらいいね。」
海達にそう明るく行って
華は扉に向かって歩き出す
彼女が強がっている事は、海にはすぐに分かった
今回、席を外す事に対してじゃない
華はきっと分かってる
吉野が目を醒ませば…俺達がまた旅立つことを…
きっと、それを恐れてるんだ…
「…ごめんな、華。」小さく呟いた海の言葉は
誰にも聞かれることは無かった
華が出ていったのを見て
葵は四人に視線を向ける
「…皆を読んだのは、吉野君について話すことがあったから。」
空気が変わる
皆真剣な表情を向けた
「…吉野君の心が壊れた事について、どれだけ知ってる?」