名前の無い物語
「何で、お前その事…!」
海と柚歌ならともかく
何故、今出会ったばかりの葵がその事を知っているのか
二人には分からなかった
「理由は後で話すわ。今は質問に答えて。」
柚璃の後押しに、最初に空は答えた
「俺はさっき合流したばっかだから…只、心がズタズタになってて生きてるのが不思議な位だって聞いてるけど…。」
「私達も、最初はそう思ってたけど…一緒に旅していく内に、吉野が心を取り戻しているって感じたわ。」
出会った頃に比べたら
吉野は随分人らしくなった
それに、クラスメート達とも分かり合えた
少しずつだけど、吉野は明るくなってきていた
「…でも、心が壊れた原因については知らない。
たぶん、さっきの奴等はそれを…。」
海の言葉に
空と柚歌も俯いた
心が壊れた事は知っていたのに
原因は何も知らない
というか、クラスメート達に会うまで…吉野は一体どこに住んでいたのか
どんな中学生だったのか
何も知らない
「…吉野君は今、ただ気を失っているんじゃないの。
…過去を、本当の自分を思い出してるの。」