名前の無い物語
安心したように
葵はニコリと笑った
「私も、吉野の過去を教えて下さい。」
「俺も。てか、それが出来ねぇとこんな所いねぇし。」
空の言葉に
柚歌も少し笑う
何も疑わずに、自分の運命に従っていこう
二年前のあの日…そう決意したのだから
「…吉野君は、本当に恵まれてるね。」
優しく笑って
葵は三人を見渡した
…迷いのない、強い瞳
吉野君、ここにもあなたを想ってくれる人がたくさんいるんだよ?
葵は制服のポケットに手を入れる
取り出したのは、1つの黒い石
「これは吉野君の過去が入ってる…輝石。これを通じて、皆には吉野君の過去を視てもらう。」
「これが輝石!?」
海は目を丸くした
自分の能力が込められている石…それが輝石
葵の千里眼の輝石は、本来は透明の筈
だけど、これだけ黒く染まっていると言うことは
それだけ…残酷な過去
「…準備はいい?」
葵の言葉に、三人は顔を見合わせた
大丈夫
全員が、そう言った気がした
「これは夢でも幻でもない現実。
吉野君の心が壊れる原因となった…ある日の出来事。」