名前の無い物語
どこを見ても木 木 木
とりあえずどこかの森って事だけは確かだ
「つーか俺の荷物…ってあれ?」
持っていた筈の鞄はそこには無く
あるのはいつも身に付けていた硝子のお守りと
封筒で今朝届けられたスプーンだけだった
「何でスプーンが…。」
確か鞄の奥に入れた筈なのに…
寧ろ財布や携帯が何故無いんだ?
ハァ、と溜め息を吐いて
吉野は落ちていたスプーンを拾う
その瞬間
「…は?」
どれだけ頑張っても曲がらなかったスプーンが
クニッと前向きに曲がった
「…。」
どうなってんだ?
何か、進めって言われてるみたいに…
少し不信に思ったが、このままここに居ても埒があかない
吉野はスプーンが指した方向に歩き出した