名前の無い物語
ドサ、と小さな音を立てて
陽斗の隣に伊織が『降ってきた』
さっきまでは無かった筈の体に、たくさんの切り傷を着けて
そこから…溢れんばかりの赤い液体が流れる
「伊織…陽斗…?」
呼び掛けても呼び掛けても
ピクリとも動かない大切な『友達』
さっきまで
さっきまでは…普通に動いていた筈なのに
「なぁ…起きろよ…。何の…冗談だよ…?」
声が震える
頭では分かっている筈なのに
心が…この現状を否定して…
「三人で、マスターになるんだろ!?世界を、闇から護るんだろ!?なぁ…こんなところで寝た振りなんかしてんなよっ!」
お願いだから
もう一度…名前を呼んで笑ってよ…
ドクンドクンと、心臓が嫌な音を立てる
段々、その音しか耳に入らなくなった
吉野は気付いていない
ゆっくり自分にまとわりつく、黒い光
絶望、恐怖、怒り、憎しみ
その全てを兼ね備えた…闇が、吉野を包み込もうとしている事に
そしてそれが、鎖邊の狙いだと言うことに…