名前の無い物語
「空…。」
隣に立っているだけで
空の息遣いの荒さが聞こえる
それだけ、苦しい状況にあるのだ
「…悪い、海。」
「あ?」柚歌と鎖邊から目を離さずに
海は意識だけ空に向ける
「俺が、勝手なことしてさ…。本調子だったら、海が俺に合わせるのだって楽だったのに…。」
そのことか、と海は溜め息を吐いた
確かに今の空は体力的にも精神的にも限界になっている
能力度が安定するかは分からない
「…お前が、吉野との『約束』を忘れないでくれたから、別にいい。」
海の言葉に
空は顔を上げた
吉野との『約束』
「絶対に護るぞ。アイツが命を懸けて…闘ってんだから。」
ニッと笑った海に
空もつられて笑う
大丈夫
信じれば…どんな状況でも乗り越えられる
「‘魂のオーケストラ’!」
無数の音が鎖邊を襲う
いつも通り受け止められる…柚歌はそう予想した
だから
柚歌はすぐに、2撃目として間合いを詰めていく
だかそれも分かっていたかのように
鎖邊はニヤリと笑って
「っーー!」
一瞬、柚歌の右横腹に剣が掠める
流れる血と走る激痛
けど柚歌は止まらず、鎖邊に向かって手を向ける
「…‘変拍子’!」