名前の無い物語
「見せろ、柚歌。」
泣き止んだ柚歌に、海はそう告げた
何の事か分からないのか、柚歌は首を傾げる
「その傷。それはさすがにヤバイだろ?」
海が指差したのは
柚歌の脇腹の傷
あ…と柚歌と空は目を丸くした
未だに止まらない血
確かにこれは早く治さないと大変だ
海は傷に手を添える
すると、海の手から白色の光が現れ傷を包み込んだ
海が持っている、柚璃の能力…’癒‘の輝石
オリジナルには及ばないが、少し位ましにはなる筈
少しずつ塞がっていく柚歌の傷
とりあえずは安心だ
「そうだ…鎖邊は!?」
空は咄嗟に振り返る
そこに写った光景に、空は言葉を失った
先ほどとはすっかり変わってしまった風景
これが…消滅魔法の威力…!?
「…見てわかる通りだよ。あの魔法の威力は凄い。それに、あのタイミングで避けられるとは考えられない。」
あのタイミングは完璧だった
もし避けられていたのなら
ソイツはきっと…人間じゃない
「終わったんだよ…全て。」
柚歌の言葉が、優しく聞こえた
終わったのだ
自分達を巻き込んだ…吉野を苦しめた、全ての原因が
「吉野…。」ハッ、と柚歌は呟く
吉野
吉野は…?
「なぁ、アレ…。」
柚歌を治療しながら、海は空を見上げた
彼の言葉に、二人も空を見上げる
空からナニカが降ってくる
そう…あれは…
「吉野…!?」