名前の無い物語
柚歌の言葉は理解出来なかった
だんだんと…柚歌の身体が震えていく
「人にはそれぞれ’音‘を持ってるの。それは生きてる限り私は感じることが出来る。
だけど、吉野からはそれが聞こえない…。」
人が持つ’音‘が、生きているという証
「けど、ちゃんと息してるぜ?」
「えぇ…。生きてるのは間違いないんだけど…。」
そう、生きているのは間違いない
じゃあ、この現象は何なの…?
目を醒まさない吉野
三人は顔を見合わせるが、何も答えは浮かんでこない
「…オイ。」
海の目の色が変わる
「誰か…近づいてきてる。」
海の言葉に、空と柚歌も視線を向ける
風で起こる土煙の向こう側
人影のような黒色が…段々と大きくなってきている
「鎖邊か…!?」
「分からない…。」
けれど鎖邊ならば、この状況はマズイ
もう皆まともに戦えない
クソ…、と海は舌打ちを吐いた
影が土煙を越えた、その瞬間
三人は目を疑った