名前の無い物語
まるで貴族がするような丁寧な振る舞い
「そちらの、滝川吉野のクラスメートの一人であり…。」
「そして。」と、少女は閉じていた目を開けて
その瞳を海達に向けた
「正規の長老会のメンバーであり、今は亡き藤澤の手によって生まれた…その意思を担う者。」
一瞬、何を言われているのか分からなかった
吉野のクラスメート、それは外見で分かる
けど最後の
最後のやつは…
「藤澤さんが…長老会…?」
藤澤さんは、確かあの世界に辿り着いた吉野を拾った人
伊織さん達と離れた吉野を…導いた人
その人が、長老会…!?
「ハイ。藤澤は紛れもなく私達の世界を担当した長老会の一人です。」
千裕の言葉に、海達は言葉が出なかった
心が傷ついた吉野を、長老会のメンバーが拾った
これは…偶然なのか…?
「えと…柳さん?」柚歌の声に、千裕は首を傾げる
「じゃあ君は…その長老会の役割を果たしに来たってこと?」
柚歌の言葉に、千裕は首を横に振る
「いえ…。私が藤澤に与えられた役割は、滝川吉野を正当な道に導くこと。これは、あなた方があの世界に来た時に果たしています。」
ますます分からなくなって、三人は首を傾げた
彼女が来たのは、長老会とは関係ない…?
「じゃあ、何のために君は…。」
「それが分からないのです。行かなければならないと思い、ここに来たのですが…。」
チラリ、と千裕の視線は倒れている吉野に向かう
「…失礼。」千裕は吉野の側に座った
「…滝川君、心を壊してしまったのですね。」