名前の無い物語

茫然とした


今告げられたことを…信じたくなかった


「嘘、だろ…?」静かに
震えた海の声は耳に届いた


「嘘だ…吉野が、目を醒まさない?」

「んな冗談、どうかと思うぜ?」

ハハッ、乾いた笑いを起こす空と海対し
柚歌は茫然と吉野を見つめていた


只瞳に…涙をうっすら溜めながら…


「…残念ながら、これが事実です。」

容赦無く放たれた残酷な言葉

瞬間、二人の瞳から色が消え
身体も少し震え始めた


「っ…吉野っ!」

我慢していたものが溢れだし
柚歌の涙は溢れ落ちる

嗚咽をもらしている柚歌の姿を
二人は只茫然と見ていた

何で…何でだよ…

もう一度星を観るって、約束したじゃねぇかよ…


「なぁ、お前治し方知らねぇのか!?吉野だけならともかく、俺達が力を合わせれば…!」

空は千裕に懇願の瞳を向ける

千裕は、またうーんと頭を悩ませた

彼女だけが頼りだった

今の自分達には、成す術が無い


「…心を1つにし、自身の心を引き換えに平和を手にし、私がここに呼ばれた…。」


ハッ、と千裕は目を丸くする
すると、「成る程。」と一人納得したように頷いた


「な、オイ!分かったのか!?」

「ハイ。滝川君を救う方法は、1つしかありません。」

フフン、とまるで楽しそうに生き生きと言う千裕

「どんな方法なんだ!?俺達も協力する!」

「その必要はありませんよ。」

海は首を傾げた

千裕は彼らの方を見る

キラリと輝いた瞳と…合った


「私が…滝川君を救ってみせましょう。」













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