名前の無い物語
「おはよう、海。」
ドアを開けて出迎えてくれたのは
笑顔が似合う小柄な少女
「…華?」
予想外の出来事に少年は目を丸くした
またいつもの如く、自分は寝坊した
もはや時間ギリギリなのに…何故彼女はここに?
「えと…ほら、会うの久しぶりでしょ?だからゆっくり話したくて…。」
照れているのか
顔を赤らめながら言う少女に
少年は少しにやけて、「そうだな。」と頷いた
ドアに鍵をかけて
校舎までの道のりを歩き出す
もう登校時間をとっくに過ぎているからか辺りに生徒はいなかった
「…なんか、ごめんな。ずっと留守にしてて。」
突然の謝罪に少女は首を傾げた
「ずっといなかったんだろ?何してたのか、全然思い出せねぇけど…。」
ベッドの上で目が覚めて
いつも通りの光景の中…1つだけあった違和感
ここ二週間辺りの記憶がポックリ抜けている
仲間の情報によれば、自分は外出していたらしい
けど、どこにいて、何をしていたのか
全く思い出せない
「…海が記憶を忘れちゃうくらいだもんね。きっと凄いことが起こってたんだよ。」