名前の無い物語
「オーイ、柚歌!」
少し肌寒くなった朝
校門の前で斎藤柚歌は振り返った
「おはよ、彰。」
フワッと笑った柚歌の先には、茶髪の少年ーー草薙彰
「珍しいね、彰が時間に間に合うなんて。」
「人を遅刻魔みたいに言うなよ。」
ハハハッ、彰の笑顔を見て、柚歌も笑う
いつもと変わらない朝
本当なら、ここにはもう一人居る筈だったのに…
「どうしたんだよ、柚歌?」
彰の言葉に、柚歌は我に帰る
「ううん、何でもないよ。」
それだけ告げて、柚歌は歩き出す
存在が消えてしまった、あの人
自分を犠牲にしてまでも
世界を救ってくれた人
『彼』のことを少し思い出しながら、柚歌は悲しく笑った