名前の無い物語












「オーイ、柚歌!」



少し肌寒くなった朝
校門の前で斎藤柚歌は振り返った



「おはよ、彰。」



フワッと笑った柚歌の先には、茶髪の少年ーー草薙彰


「珍しいね、彰が時間に間に合うなんて。」


「人を遅刻魔みたいに言うなよ。」




ハハハッ、彰の笑顔を見て、柚歌も笑う
いつもと変わらない朝

本当なら、ここにはもう一人居る筈だったのに…



「どうしたんだよ、柚歌?」



彰の言葉に、柚歌は我に帰る


「ううん、何でもないよ。」



それだけ告げて、柚歌は歩き出す


存在が消えてしまった、あの人
自分を犠牲にしてまでも
世界を救ってくれた人


『彼』のことを少し思い出しながら、柚歌は悲しく笑った




< 7 / 595 >

この作品をシェア

pagetop