名前の無い物語
声に海は振り返る
「柚歌…。」
柚歌はニコッと微笑んだ
それに海も返す
「ここに居たんだね。」
「部屋に居ても落ち着かねぇし…。」
柚歌は海の隣に座る
視線は小瓶に向かっていた
「綺麗だね。桜貝?」
「あぁ。」海も桜貝に視線を移す
綺麗な桃色に輝いた貝殻
「約束したんだ。ずっと一緒に居るって…この貝にさ。」
まだ純粋だったあの頃
この関係が、ずっと続くと信じていた
「…ごめんね。私だけ勝手な事言って…。」
柚歌の言った事
それは、すぐに予想出来た
「海も吉野も…大切な人がいるのに…。帰りたい気持ちは変わらないのに。
私だけ我が儘言って…。」