茜色の天使~月夜の天使・番外編
「美織ちゃん、どうして、片想いだってわかっててそんなに一途になれるんだ?」


思わずそんな質問をしてしまった。


美織はほんとうに嘘のない表情で、渡瀬と幸せになって欲しい・・・そう言った。

オレには考えられないことだった。


「亮太先輩には言っちゃってもいいかな。美織、もう長くないの。だから、残りの命全部で、十夜先輩の幸せを祈りたいの。だって、十夜先輩は美織に、『死ぬな』って言ってくれたから」


「死ぬな」


その言葉に重みを感じた。


死に直面している人間にとって、どれほど嬉しく重い言葉なのか、美織の表情から見てとれた。


「そういえば、亮太先輩もさっき言ってくれたね。『死ぬな』って」


美織は思い出したようにクスクスと笑う。


「オ、オレも・・・美織ちゃんに、生きてて欲しい」


オレは混乱していたのかもしれない。


美織ちゃんが死ぬなんて、あまりにも唐突で。


美織は無垢な表情でオレを見つめると、「ありがとう」と、笑ってくれた・・・。


天使の微笑みで。


「亮太先輩も、好きな人には好きって言い続けてね。その人の幸せを願って、1回1回の『好き』に祈りをこめるの。そうしたら、片想いでも、1人の人を幸せにすることができるんだよ」


目尻から熱いものが流れてくるのを感じた。


女の前で泣くなんて。


美織は気づいたのか、気づかなかったのか、川に目を移すと夕暮れに染まる空を嬉しそうに見つめていた。



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