ライオン岬
第2章
 岬への遠乗りの集合は、小学校の校門に朝の9時、と決めてあった。
 朝、ぼくは方位磁石と地図、それにポテトチップにカルピスをいれた水とうを遠足のときのリュックにつめた。
 ユーイチとの電話で、食料はそれぞれ自分たちが、方位磁石と地図はぼくが、お手製のローソクたてはユーイチが持ってくることになっていた。
 父さんも母さんも、もう仕事で役場に行ってしまっていた。だれもいない家の玄関先でリュックを背負(せお)い、自転車を出す。田んぼの中の、自動車が一台通れるくらいの道を、ぼくは小学校にいそぐ。道ばたには、赤くレンゲの花がさいている。
ゆるやかにカーブする田んぼの中の道でペダルをふむと、3月なのに少しだけ背をのばした苗(なえ)が風にゆれている。小さく見えていた校門がだんだん大きくなってくる。だが、人かげはない。自転車をこぎながら、うで時計を見る。8時50分だ。
 校門に着き、自転車を止める。
 足でスタンドをおろした、ちょうどそのとき、うしろで、ワッ、と声がした。
 ふりむくと、ユーイチのよく焼けた顔があった。そばに小さなリュックを背負って、二人の弟、4年生のヒロアキと2年生のマサルもいる。
 白い歯をのぞかせてユーイチは言った。
「遠くにお前がいるのが、ちゃんと見えてたぜ。だから、おれたち、お前が来るまで、校門のかげにかくれよう、ってことにしたんだ」
 ぼくはさっそく聞いた。
「ローソクたて、できた?」
 ああ、と言って、ユーイチは背中のリュックをおろすと、中からお手製のものを取り出した。
 
 
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