恋するショコラ《完》


次の朝起きると、ほのかはいつになく体が軽いと感じた。悪夢を見るようになりよく眠れなくなってからはこんなことはじめてだった。


自分に密着する温かな体温に一瞬びくりと体を震わせたが、真人の体温だとわかり安心する。いつもはほのかより早く起きて出掛けてしまう真人だが、今日はオフなのでゆっくりしていられるのだ。


ほのかは普段見られない寝顔をまじまじと見つめた。色素の薄い髪の毛に長いまつげ、すっと通った鼻筋。形の整った薄い唇。寝ている今はわからないが、瞳は意思の強そうな黒。ほのかを抱きしめているたくましい腕は彫刻のように美しい。


改めてまじまじと見ると、こんな美しい人に抱きしめられていることがなんだか恥ずかしくなった。ほのかはどきどきしながら真人の頬を撫でた。


ふと、撫でていた頬に小さな引っ掻き傷のようなものを見つけた。おそらく昨日、自分の父親が着けたものだろう。ほのかは昨夜のことを思いだし、血の気の引いて冷たくなった手を真人から急いで離した。



< 33 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop