恋するショコラ《完》
父親が着けた傷。
自分のせいで真人を傷付けてしまった。
ほのかは自責の念に襲われた。
自分がここにいたら、父は追ってくるだろう。もしも父がまた来たら、真人をまた傷付けてしまうかもしれない。真人はほのかを助けてくれた恩人だ。そして、ほのかは今や真人に対して恩人以上の感情を抱いていた。
もしまた父に見つかればまた以前のような生活を送るしかない。見つからなくても仕事も住む場所もなんの宛もないのだ。
ほのかはそっと真人の腕の中から抜け出した。真人は疲れていたのかほのかが抜け出しても起きる気配はない。ほのかは素早く着替えて、家を出る準備をした。準備も何物持ってきたものが何もないので、ここへ来たときに着ていた薄いワンピースに着替えるだけなのだが。
最後に挨拶だけでもしたかった。
出来ればその温かな腕で抱きしめてほしかった。
それはもう、叶わないけれど。
せめて、
そう思い、ほのかは真人にそっと近づいてその頬に軽いキスを落とした。人生初のキスは悲しい別れのキスだった。