絶対、逃がさない!②(短編)
 お姉さまは、大きな黒い瞳を驚いたように見開いたが、やがてにっこりと微笑んだ。

 綺麗な、紅色の唇が動いた。



「ありがとう。では、遠慮なく」

「いいえ。どうぞ」



 どきどきどきどき。おれの心臓は高鳴りすぎて、今にも飛び出しそうだ。

 お姉さまはおれの前に立った。

 細くて、すらりとした身体。腰まである黒髪はきっちりと切りそろえられている。

 

 良い香り。スタイルいいなぁ。綺麗だなぁ・・・・二年生かなぁ、三年生かなぁ・・・。名前なんていうんだろう。お知り合いになりたぁい。



 おれがぐるぐる、考えているうちに、小銭の音がした。

 お姉さまが食券を買い終わって、お釣りを返却口からとった。



 なに買ったのかな? パスタ、ううん、和食の日替わり定食かな? いがいに、オムライスとか? 




「お先に。ありがとう」



 お姉さまはにこやかに微笑みながら、おれにそういって、カウンターのほうにゆっくりと歩いていった。

 おれはそれを見送って、握り締めていた五百円玉を販売機に投入した。

 ボタンを押そうとした手が、とまった。


 
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