幼なじみの甘いレシピ
カナエは彼とラブラブだから、素直に愛情を差し出せるし、出したのと同じ分だけ返ってくるんだろうな。
わたしは……わたし達は、そんな関係じゃないもん。
ただの幼なじみ。腐れ縁。角砂糖ひとつ分ほどの甘さすらない。
「ねえ、ユイ。これからカラオケ行くんだけど、一緒に行かない?」
「うーん……。ごめん、今日はやめとく。図書室で借りたい本があるんだ」
また本?とカナエが苦笑した。
「あんまり本ばかりに御執心だと、コータがまじで妬くよ」
まさか。あいつが妬くわけないじゃない。
わたしはふてくされた気分を隠して、幸せそうなカナエたちの後ろ姿に手を振った。
* * *
図書室に着くと、図書委員の太田さんがちょうど戸締りの準備をしているところだった。
「あ、ユイちゃん。こんな時間にめずらしいね」
「ちょっと教室で小説を読んでたら遅くなっちゃって。今日はもう閉めるんですか?太田さん」
「そのつもりだったけど、使う?」
「お願いします」
オッケー、とイタズラっぽく笑って、太田さんは受付カウンターの上に鍵を置いた。
「じゃ、いつものように、帰るときは戸締りよろしくね」
「はあい」
ほんとは、図書委員でもないわたしが鍵なんか扱っちゃいけないんだけど。常連の特権とでもいうべきか、時々こうして特別に使わせてもらえるのだ。