亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
最上階は、細く長い廊下が続く。
両端には灯となる蝋燭が並ぶが、火は灯っていない。完全に光が閉ざされた闇の中を、二人は全く躊躇せず、壁にぶつかることなく、スタスタと通り過ぎる。

最奥に、ぼんやりと浮かぶ縦長い扉。

やや高い位置にある錆びたドアノックを掴み、二回鳴らした。

中から返事は無いが、トウェインは扉を開けた。


「―――五分前行動も取れないのか?四部隊の隊長さんよ」

広く、白と黒を基調とした、まるでどこかの宮殿の様な様式の一室だが、数本のランプが灯っているだけで、中は薄暗い。

……部屋に入るや否や、ドスの利いた声に迎えられた。トウェインは声の主にきびきびと入口の前で敬礼をし、斜め四十五度で頭を下げる。

「……申し訳ありません。以後気をつけます」

それに対し、鼻で笑うような声が聞こえた。後から入って来たジスカは、この嫌な空気を前に頭を掻く。


低い声音の主は第二部隊隊長、ゴーガン。
外見は何というか野性的な巨漢だ。
黒く短い髪に、顎の辺りにちらつく髭。爛々とした赤い双眸はトウェインを刺す様な視線を送っている。
まだ年若く、しかも女という軍としてあるまじき存在が気に食わないようだ。顔を合わせる度に、何かと批判してくるゴーガン。
それが分かっているトウェインは、その迫害にたいして何も反発しない。常に受け身を貫いていた。

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